使用環境とステンレス鋼の選択

不動態皮膜破壊物質(ハロゲンイオン/塩分・塩ビ焼却煤煙など、硫黄酸化物/排気ガス・温泉蒸気など、非酸化性の酸/清掃薬剤など)の飛来が多いか、少ないかで地域を類型化分類し、その地域環境に対して適切と考えられるステンレス鋼の種類を下記に示します。


■類型化した地域環境に対して適切と考えられるステンレス鋼の種類

鋼  種

田  園

都  市

工業地域

海浜地域

SUS430

×

×

×

×

×

×

×

×

×

SUS304

SUS316

高耐食性ステンレス

 

<記号の説明>◎:適当 ○:使用可(適切な表面仕上げ、清掃等の条件付) ×:不適 ●:鋼種類の選択次第で○〜◎レベル
各地域の中で、L=比較的緩い腐食環境(低温、低湿度) M=その地域の典型 

H=比較的厳しい腐食環境(高温、高湿度、乾燥繰返し頻度多、大気汚染)を表します。
注:高耐食性ステンレス 例:SUS317J4L、SUS447J1、SUS329系や各メーカーの高耐食性鋼種

       

ステンレスとは

 ステンレスは鉄をベースとし、クロムあるいはクロムとニッケルを基本成分として含有する合金鋼です。
 ステンレスには、たくさんの種類がありますが、その基本形は、13%および18%のクロムを含有する合金鋼と18%のクロムと8%のニッケルを含有する合金鋼です。これらは、一般に13クロム系、18クロム系、18‐8系ステンレスとよばれています。これらをベースにさらにクロムやニッケルの含有量を増やしたり、モリブデン、銅、チタンなどを添加することによって耐食性をはじめ機械
的性質の異なる、たくさんの種類のステンレスがつくられています。
 ステンレスの材料特性は鉄との共通点が多いが、最も大きなちがいは、ステンレスの方がはるかに耐食性にすぐれ、さびにくい点です。その秘密はクロムやニッケルなどの含有成分にあります。
 鉄は空気中で酸化し、さびやすいが、約11%以上のクロムを添加すると耐食性が向上し、さびにくくなります。これはクロム元素が空気中の酸素と結合して、地金の表面に強固で、ち密な不動態化皮膜(酸化皮膜ともいう)を形成し、この皮膜が酸化作用をふせぐとともにさまざまな腐食要因から地金の表面を保護する役目をはたしているためです。そしてニッケルやモリブデンは、この不動態化皮膜を改善強化するはたらきをしています。このため通常、クロム、ニッケル、モリブデンなどの含有量が多いステンレスほど耐食性にすぐれ、さびにくいとされています。



ステンレス材のメンテナンス

1.ステンレス建材のさびとは
 
ステンレス建材は、軟鋼やアルミニウムにくらべて、はるかに耐食性にすぐれ、非常にさびにくい金属ですが、絶対にさびない金属ではありません。使用条件や使用環境によっては、よごれることも、さびることもあります。ところがステンレス建材はさびない金属であるときめてかかり、日頃のメンテナンスを怠り、よごれやさびが目立つようになってから、あわててクリーニング対策に取り組むケースが少ないようです。
 ステンレス建材が耐食性にすぐれ、さびにくいのは、前途のように含有成分のクロム元素が空気中の酸素と結合して地金の表面に強固で、ち密な不動態化皮膜(酸化皮膜ともいう)をつくり、この不動態化皮膜が地金表面の酸化作用(さび)をふせぐとともに、さまざまな腐食原因から地金表面を保護するはたらきをしているからです。従って、この皮膜が、なんらかの腐食原因によって、きずつけられ、クロムと酸素の結合がしゃ断された状態で放置されるとステンレス建材にもさびがみられるようになります。
 しかし、腐食原因が除去され、クロムと酸素の結合は可能になれば、不動態化皮膜は再生され、耐食機能をとりもどします。
 ステンレス建材のよごれやさびの原因は、さまざまですが、ほとんどの場合、大気中に浮遊する鉄粉や有害ガス中の成分の付着、堆積、あるいは潮風に含まれている塩分の付着などがあげられます。これらの付着物が核となり、湿気が加わって固着し、ステンレス表面の不動態化皮膜をきずつけ、またその再生をさまたげている状態が、ステンレス建材のさびといわれる状態なのです。これらのさびは初期の段階なら、比較的簡単に除去でき、もとどおりの表面状態にもどります。かなり長期にわたって放置されても、適切なクリーニングによって、ほぼ原状にちかい外観をとりもどすことができます。このようにステンレス建材のさびは、ごく表面的なものであって、材質自体の腐食によるものではありません。この点が、軟鋼やアルミニウムのさびと根本的に異なるところです。
 従ってステンレス建材は、時にさびることがあるが、常日頃からメンテナンスに留意すれば、いつまでも、ステンレス建材本来の美観を維持することができます。

2.さびやよごれの原因
 @道路工事や建設工事あるいは各種車両の走行のさい飛散する土砂、ほこり、鉄粉などが付着したとき。
 A自動車やバスなどの排気ガス中に含まれる亜硫酸ガスなどの有害成分にさらされたとき。
 B各種工場、ごみ焼却場、ビル冷暖房設備などが発生するばいじんや排ガス中の有害成分にさらされたとき。
 C温泉地帯で発生する腐食性ガスにさらされたとき。
 D海岸地帯の潮風に含まれる塩分が付着したとき。
 E清掃薬液が付着したとき。
 F指紋のあとや手あかによるよごれ。
 G表面保護用粘着フィルムによるよごれ。

3.手入れ法
(1)異種金属の付着によるさびの場合

 鉄粉などによる゛もらいさび"が、まだそれほどひどくない場合は、中性洗剤や石けんをスポンジや布に含ませ、ふきとるようにすれば、容易に除去できます。その後の水ぶきは十分行ない、洗剤液が残らないように注意してください。この程度のもらいさびの時点ですぐにクリーニングすれば、手入れは簡単、かつ効果的であり、清掃費も安価です。
 この状態を放置しておくとやがて水酸化鉄、酸化鉄、亜硫酸鉄などの混合物となり、茶褐色のひどいさび状態にかわっていきます。こうなると市販のステンレス用清掃薬液か硝酸の15%希釈液などを用いないときれいに除去できなくなります。それでもなおさびが除去できない場合は、ステンレス面を多少、傷つけてしまうが、サンドペーパーやステンレスブラシなどでこすり落とすように研磨します。それから清掃薬液であらためて洗浄します。


(2)排ガス中の有害成分の付着によるさびの場合

 工場地帯や市街地の交通量の多い立地環境では、ステンレス外装がよごれやすく、またこまかく点々としたさびがみられることがあります。これは自動車や冷暖房装置からの排ガスや工場排煙中に含まれている有害成分の影響による場合が多い。
 この場合も、比較的軽いよごれの場合は、中性洗剤や石けん水程度できれいにクリーニングできるが、ひどくなると簡単ではない。その場合は、前記(1)の場合と同様の手入れ法を採用しなければなりません。
 このような立地環境では、できれば年2〜3回の外装の全面的な定期清掃が望まれます。少なくとも年一回の定期清掃が絶対に必要です。


(3)塩分の付着によるさび

 海岸地帯などで潮風にまともにさらされるとSUS430はもちろん、SUS304のステンレスでも比較的短期間に赤さびが生じます。しかも他の地域の場合より、さびの進行が早い。手入れ法は、(1)の場合と同じ。
 海岸地帯でステンレス外装を採用しようとする場合は、SUS304より耐食性にすぐれているSUS316か、塗装ステンレスの採用が望まれます。SUS304のステンレス外装の場合は、できれば年3〜4回の定期清掃が望まれます。

(4)清掃薬液の付着によるさび

 中性洗剤で除去できない場合は、清掃薬液を用います。

(5)手あかや指紋あとによるよごれ

 中性洗剤か石けん水で、きれいに除去できない場合は、有機溶剤(アルコール、ベンジン、アセトンなど)をスポンジか布に含ませてふきとります。(ただしカラーステンレスの場合は、水溶性の中性洗剤以外は、使用してはならない。)この方法で十分でない場合は、ステンレス用清掃薬液を用います。いずれの場合も、使用後の水ぶきを入念に行うこと。

(6)表面保護用粘着フィルムによるよごれ

 水溶性の中性洗剤か、アルコールを含ませたスポンジか布でふきとります。これでダメな場合は、シンナーやベンジンを用います。いずれも、使用後の水ぶきを十分行なうこと。

4.手入れ上の注意
(1)無塗装ステンレス材の場合
 @ステンレス建材のよごれ、さびの原因と状態は、個々のケースによってまちまちです。それぞれの状況に応じ最も適切な手入れ    法を採用してください。
 Aよごれ、さびを除去するため、清掃薬液を使用する場合は、あらかじめ局部的に゛ためしぶき"して、洗浄効果を確認して下さい。テストの結果、満足な結果が得られたら、その方法で全面にわたる清掃に着手して下さい。
 また、よごれ、さびの部分だけでなく、できるだけその周辺部も清掃するようにして下さい。そうでないとステンレス面の光沢のむらが目立ち、外観上見苦しくなります。
 B清掃薬液の使用後は、必ず十分に水ぶきして、薬液がステンレス面に残らないように注意して下さい。そのまま放置しておくとさびの原因となります。なお、清掃薬液によっては、手荒れやかぶれを起すことがあるので必ずゴム手袋を使用してください。
 C布、ヘチマ、ナイロン製のスポンジ、たわし、ブラシなどの清掃用具を用いる場合は、必ずステンレスの研磨目にそって平行に手を動かすようにして下さい。円を描くようなやり方をするとよごれが落ちにくいし、また表面の光沢のラインがくずれ、見苦しくなります。
 なお、スチール製の清掃用具はもちろん目のあらいクレンザーやサンドペーパーなどの使用は、かなりひどいよごれ落しの場合はともかく、通常の場合は、絶対にさけてください。ステンレス面を傷つけたり、鉄粉が付着してさびの原因となるからです。





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